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最高裁判所第二小法廷 昭和60年(オ)1278号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人南里和広の上告理由について

破産者が義務なくして他人のためにした抵当権設定等の担保の供与は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であつても、破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たるものと解するのが相当である(大審院昭和一一年(オ)第二九八号同年八月一〇日判決・民集一五巻一六八〇頁、最高裁昭和五八年(オ)第七三四号同六二年七月三日第二小法廷判決参照)。したがつて、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、破産者三浦が破産の申立前六月内に義務なくしてヒカネ電気工業株式会社のためにした本件根抵当権等の設定が破産法七二条五号にいう無償行為に当たるとして、被上告人の本件否認権行使を肯認すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、これと異なる見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官島谷六郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官島谷六郎の反対意見は、次のとおりである。

私は、破産者三浦が義務なくしてした本件根抵当権等の設定が破産法七二条五号にいう無償行為に当たるとする多数意見に賛成することはできない。その理由は、最高裁昭和五八年(オ)第七三四号同六二年七月三日第二小法廷判決において述べたとおりであるから、これを引用する。

したがつて、原審の判断は、法令の解釈適用を誤り、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、右違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、同条五号のみを原因とする被上告人の本訴請求は、理由がなく棄却すべきものであるから、これを認容した原判決を破棄し、第一審判決を結論として維持すべく、本件控訴を棄却すべきである。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧圭次 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 林藤之輔)

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